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釣り日記 笑えない話

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釣り日記 笑えない話
石垣


これもずい分古い話である。
1968年の3月、東京に大雪が降った。
その日は、私が東京に転勤になって初出勤の日でもあり、驚いた。
その翌年の4月には、沖縄反戦デーの大規模なデモがあり、デモ隊が銀座を中心に都心を制圧した機動隊とデモ隊の壮絶な闘争を、職場の窓から見物(不謹慎!)していたのを覚えている。
安保闘争の最終局面に差しかかっていた時期だった。
その安保闘争の前年か、翌年か定かではないが、米国の宇宙飛行士が銀座でパレードしたこともあった。

そんな事があった年の7月、
上司と伊豆東海岸へ釣行をしたときの話。

いつものように釣り雑誌などで情報を収集し、城ヶ崎海岸から富戸港辺りを釣り歩いてみようと計画した。

土曜日の午後7時半頃、伊豆急行の伊豆高原駅に着くと、
生憎の雨だった。
暫くの間、駅構内で様子を見ているうちに、雨も小止みになって来たので、駅を出て目標に向かって歩き出した。
道なりに歩けば海岸に行き着けるだろうと思って、黙々と歩いたのだが、一向に潅木の中から抜け出すことが出来ない。
思い切って左に曲がり、小路に入ってみた。
すると石垣にぶつかった。
その石垣を乗り越えようと身を乗り出すと、目の前は人家だった。

もし、この時人が見ていたら、きっと『泥棒』だと思ったことだろう。
夜の9時頃、怪しげな2人組みが人家の石垣を乗り越えようとしているのだから、当然のことだ。

結局のところ、1時間近くも、別荘地の中をぐるぐる徘徊していたことになる。
まったく、お笑いである。

それから、来た道をまた引き返し、
今度は慎重に道を選んで、何とか海岸に出ることができた。

出た所は、火山岩が風化して出来たような大きな岩場で、イガイガネ(間違っているかもしれないが)と呼ばれている岩場だと思う。
折角来たのだから…と、竿だけは出してみた。
電気ウキを水面に落とすと、それはタバコの火のように小さく見えて波間を漂った。

暫く電気ウキを眺めていたが、眠気をもよおしてきたので釣りをやめて休むことにした。
上司は早くも岩陰で休んでいた。

目が覚めると、天気は回復し、空には月が出ていた。
だんだん夜が明けてきて、素晴らしい日の出を見ることができた。
何となく満ち足りたものを感じ、あらためて昨夜竿を出した個所へ戻ってみると、絶壁のはるか下のほうで波が砕けていた。

『先輩!釣りますか?』と私が声をかけても、
腰を上げずに、『帰ろうよ』という返事。
私は暫くの間、リズミカルな波の音を聞きながら空を眺めていた。
帰る道すがら、昨夜迷った別荘地辺りを見やって、思わず先輩と顔を見合わせた。

(記:副代表)

この記事のカテゴリーは「釣り日記」です。
釣り好きのまる工房副代表が、釣りの思い出を綴っています。
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